持っていないものを持っている
ティグリス・ユーフラテスの両河川に広がる、
後背地に生じたメソポタミア文明。
ナイルのたまもの、
インダス川流域で起こった大文明、
そして、黄河流域で起こり、
長江の文明をも飲み込んだ黄河文明。
歴史の出発点である、世界の古代文明の発生地を眺めてみると、
ある共通点を見つけることができる。
それは、古代文明のどれもが、
農耕が可能で平地に定住する湿潤な地域と、
家畜と共に常に移動しながらの遊牧生活を強いられる乾燥した地域の、
境界線で起こっている、ということだ。
湿潤地域と乾燥地域の交わる場所で、大文明が育まれる。
一体なぜなのだろう??
それは、お互いに持っていないものを持っていたからだ。
たとえば、
一方は、野菜や穀物などの植物ばかりから食事をとる。
もう一方は、肉や乳などの動物ばかりから食事をとる。
そんな乏しく偏った資源での生活を続けるより、
お互いに持っている物を交換し合って生活を豊かにしたいと思う。
そうなると、異なる民族間で取引をしなければならない。
つまり、境界地域で交渉や交流が始まり、
お互いが行き来する交易の拠点、マーケットができたんだ。
まったく思考や生活が違う人同士が交わると、
お互いに視野が広がるとともに、互いに衝突することもある。
だから、何をどういう条件で取引するか、交渉や相談が欠かせない。
そうして自然と、言語が発達する。
さらに、今ならトラブルの解決手段として、
写真や音声レコーダー、動画としてドライブレコーダーなどの、
証拠や記録を残すことができる。
でも、当時はそんなものは残せない。
だから、文字として残すしかない。
こうして、
農耕世界と遊牧世界の境界を中心に、
文字記録ひいては古代文明が発達していった。
湿潤地域と乾燥地域は、対極的な気候、生態系、生活習慣、風習があるから、
お互いに持っていないものを持っている。
だからこそ、お互いに足りない部分を補完しあい、
あるいはそうする努力をしようと異世界との交わりに踏み出し、
今日にもつながる文明の源泉を生み出したんだ。
歴史はこうして始まった。
人間は誰しもが不完全だ。
そして、誰しもが唯一の存在であり、同じ人間なんてこの世には存在しない。
つまり、万人が"違い"を持っている。
だから、自分とは違うものに、人は惹きつけられる。
おれらは全く違う存在だからこそ、
何かひとつでも同じものを見つけると、運命だと感じる。
カップルがそのいい一例だね。
そして、人は足りないものを補い合うために、社会というシステムを作り上げる。
足りないからこそ、夫婦になるし、組織を作り会社を作る。
足りないからこそ、誰かの助けを得て、そして誰かを助ける。
神様が意匠をこらして作った "最高傑作" なんていう人間はいないんだ。
古代の人々も、自分たちが持たざるものを持っている人々が住んでいる異世界に、飛び込んでいった。
そこからたくさんの刺激を得て、学び、交わる努力を惜しまなかったからこそ、
人は成長し、言語を進歩させ、文字を生み、そして文明を開花させた。
自分の足りない部分を補うために、自分の知らない世界へ飛び込むのって、とても勇気がいることだよね。
だって、全く馴染みのない環境へ新たに身を置くことは、
安定を求める人間という動物には向いていない。
でも、その一歩の勇気が、価値観を変え、人を大きく成長させる。
それも、人間の歴史を動かすほどの。
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参考: